経口維持加算~歯科医師を主導とした協力体制の構築

1.経口維持加算とは

経口維持加算は、施設に入所している方が「口から食べる」ことを継続できるように、特別な管理を行った場合に評価される介護報酬上の加算です。対象となるのは、すでに経口摂取をしているものの、嚥下機能の低下や認知機能の低下などによって誤嚥のリスクを抱えている方です。こうした方々に対し、医師や歯科医師の指示のもとで栄養管理や食事方法の工夫を行い、誤嚥を防ぎながら経口摂取を維持する取り組みを評価する仕組みです。

加算の区分
(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。

  • (Ⅰ):基本的な体制を整え、医師や歯科医師、管理栄養士などの多職種が関わって計画・観察・会議を行う場合に算定できます。
  • (Ⅱ):さらに医師・歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士のうち1名以上が加わり、多職種の専門的な意見に基づいた質の高い計画を作成した場合に算定できます。

対象となる施設

  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
  • 介護老人保健施設
  • 介護医療院
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

2.経口維持加算ができた背景

高齢期には、病気や加齢により咀嚼・嚥下機能が徐々に低下し、むせ込み・咳き込みの増加、食事時間の延長、体重減少、食形態の軟化といった変化が起きがちです。これを放置すると、誤嚥性肺炎、低栄養、サルコペニアにつながり、入院・要介護度の進行や生活の質(QOL)の低下を招きます。

こうした現状を受けて厚生労働省は医療と介護の連携を強化し「口腔・栄養・リハビリの一体的な取り組み」を推進しました。このうち“お口から食事を摂取できる”を維持することに重心を置いた評価として経口維持加算が整えられました。特に口腔領域は、歯科医師・歯科衛生士の専門性なしには成果が生まれにくいため、歯科医師が主導して計画化・指示・再評価を担う位置づけが重視されています。

3.算定要件のポイント解説(歯科主導の全体像)

経口維持加算を進める上でのポイントは、対象者の適切な選定 → 多職種評価 → 歯科主導の計画 → 実施と記録 → 定期モニタリングと見直しという流れを、施設と歯科で切れ目なく回し続けることです。

対象者

すでに経口で食事をしているが、次にあげる検査等により嚥下機能障害や認知機能低下により誤嚥が認められる方が対象とされます。具体的検査方法としては「水飲みテスト」「氷砕片飲み込み検査」「食物テスト」「改訂水飲みテスト」、頸部聴診法、造影撮影、内視鏡検査などが用いられます。
これら検査を進めて対象者を選定するには医師または歯科医師の指示が必須です。
また歯科医師が指示を出す場合は、管理栄養士が主治医の指導を受けながら栄養指導を行う体制が必要です。

会議・観察・計画

月1回以上、医師・歯科医師・管理栄養士・看護職員・言語聴覚士・ケアマネジャー等が共同で「食事観察」「会議」を行います(テレビ会議システム可)。そこで得た結果を基に「経口維持計画」を作成し、定期的に他職種による食事観察と会議を重ねていく中で必要に応じて見直すことも必要です。また経口維持加算の算定を開始する際は計画書の内容について本人や家族への説明と同意取得も必須でとなります。

特別な管理

経口維持計画ができれば、計画に従って管理栄養士、又は栄養士が継続して経口摂取を行うための食形態の工夫、摂食方法の工夫、姿勢や環境の配慮など、誤嚥を防止しつつ経口摂取を進めるための取り組みを実施します。

4.経口維持計画書の様式と実務について(施設と歯科)

経口維持計画の様式(一体的取組との関連性)

令和6年介護報酬改定における厚生労働省の通知では「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の一体的取組」への言及があります。経口維持加算もこの一環にあり、経口維持計画については別紙様式 4-1-2 の様式例を参照の上、栄養ケア計画と一体的に作成する事となっています。
なお、施設が作成する施設サービス計画の中に経口維持計画に相当する内容を記載する場合は、その記載をもって経口維持計画の作成に変えることができるとされています。


(別紙様式4ー1ー1、4ー1ー2)
栄養・摂食嚥下スクリーニング・アセスメント・モニタリング(施設)(様式例)
栄養ケア・経口移行・経口維持計画書(施設)(様式例)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001228013.xlsx


施設側の役割

施設の各職種スタッフはミールラウンド以外の機会においても日常の食事観察を行い、一体的計画書にある食事や栄養に関する各項目について利用者個別に状態を把握しておく必要があります。

これを定期的に記録することで利用者の食事、栄養摂取状態の変化を捉えつつ、月に1回開催する多職種での食事観察と会議において医師、歯科医師にこれら情報共有したうえで利用者の「特別な管理方法」について決定していくことが重要です。

歯科側の役割

歯科医師は対象者選定のスクリーニングで実施する水飲みテスト等の検査段階から関わり、利用者個々の嚥下状態について把握をおこないます。

月に1回開催する多職種での食事観察と会議においては、普段の訪問診療で得られた口腔内の状態、咀嚼機能を含めた口腔機能の情報を他の職種に共有し、管理栄養士、又は栄養士がが適切な管理をおこなっていけるよう、適切な食事形態、食事のペース、食事の施設について歯科医師から指示を出し、利用者個々の食事に関する「特別な管理方法」の計画について方向性を示します。

5.歯科医院とうまく協力関係を築くコツ(歯科主導の食事観察と会議の開催)

経口維持加算は医師又は歯科医師の指示の下で進めることが要件です。特に「口から食べる」ことに関しては、咀嚼や嚥下を含む口腔機能の専門家である歯科医師が主導して食事観察や会議を進めることが効果的です。

施設は協力歯科医療機関を定めることで、当該歯科医療機関に利用者への定期的な訪問診療を提供してもらうことができます。歯科医院は訪問診療により定期的に口腔内の状況を観察・把握できるため、できるだけ多くの利用者が歯科医院による定期的な受診(口腔ケア)を受けることが、経口維持加算を円滑に進めるうえでも重要と言えるでしょう。

また、施設が実施する食事観察と会議は、歯科の往診時間に合わせて開催することがポイントです。これにより会議の実効性が高まり、あわせて経口維持加算(Ⅱ)の算定にもつながります。

このように対象者選定(スクリーニング)の段階から歯科の協力を得ながら進める頃で経口維持加算をより円滑に進めることができます。

6.実装の流れ~まとめ(5ステップで全体を回す)

  1. Step1:協力歯科医療機関の決定と定期的な訪問診療
    施設での訪問診療経験が豊富な歯科医療機関と協力関係を締結します。施設と歯科は、利用者に対して定期的な訪問診療を提供できるよう協議します。
  2. Step2:スクリーニング(対象者の選定)
    施設は対象候補者をピックアップし、そのリストを協力歯科医療機関と共有します。歯科の訪問診療時に合わせてスクリーニング(水飲みテスト等)を実施し、その評価結果を基に経口維持加算の対象者を確定します。
  3. Step3:食事観察・会議の開催(歯科医師・歯科衛生士の参加)
    対象者が決まれば日程を調整し、歯科往診時に食事観察と会議を実施します。歯科医師・歯科衛生士が参加し、評価と議論を行います。
  4. Step4:計画書の策定と特別な管理の実施(歯科主導)
    食事観察・会議の結果をもとに歯科医師の指示の下、経口維持計画書を作成します。家族の同意を得たうえで、食形態や摂食方法、姿勢・環境の配慮など、誤嚥防止の取り組みを実施します。管理栄養士は主治医の指導も併行して受けながら栄養指導を行います。
  5. Step5:継続と見直し
    食事観察と会議を毎月繰り返し、必要に応じて計画書の見直しを行います。

7.まとめ

経口維持加算は、嚥下障害や認知機能低下を抱える方でも「口から食べる」生活を続けるために、多職種が連携して支援する仕組みです。歯科が主導して関わることで、嚥下機能評価や口腔ケアの専門性を生かし、施設スタッフとともに質の高いケアを実現できます。施設と歯科がうまく協力し正しい体制を整えて取り組むことで、入所者の生活の質を守りより効果的な取り組みにつなげていくことができるでしょう。

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況については関係機関にご確認ください。