はじめに
か強診(現在は口管強)の施設基準として歯科訪問診療料の月5回以上の算定が必要となり、多くの歯科医院様からお問い合わせをいただきました。
ただし、訪問歯科診療は少人数の患者様だけを対象とする場合、医院様・サポート会社、双方にとって採算性の課題があることも事実です。要介護の高齢者の方々は、デイサービス・訪問看護・訪問介護などの介護サービスを利用されており、診療予約の調整が想像以上に困難であること、また移動時間により効率的な診療が難しいことが主な理由です。
それでも、外来患者様からの訪問診療のご要望にお応えしたい、または段階的に訪問診療を拡大したいとお考えの先生方に向けて、開始にあたっての基本的な準備をご紹介します。
1. 訪問診療開始前の必須準備
1-1. 行政手続きと届出
歯科訪問診療料の注15基準届出
外来診療を行っている医院が訪問診療を開始する場合に必要な届出です。届出前1ヶ月間の外来に対する訪問診療実績が95%未満であることを確認する施設基準となります。
この届出により歯科訪問診療料1〜5の算定が可能となります。届出後は院内掲示とホームページへの記載が義務付けられています。
歯科訪問診療料の注15添付書類
介護保険のみなし指定確認
歯科医師・歯科衛生士による居宅療養管理指導の算定には、介護保険のみなし指定が必要です。通常、保険医療機関届出時に辞退していなければ自動的に指定されていますが、念のため管轄の都道府県介護保険課にご確認ください。
1-2. 設備・機材の準備
必要な主要機材
- ポータブルユニット
- ポータブルレントゲン
- エンジン(マイクロモーターユニット)
各メーカーから様々なタイプが販売されていますので、材料屋さんにご相談ください。歯科医師会会員の場合、地域によってはレンタルできる場合もあるようです。
訪問車について
本格的な訪問診療を予定される場合は荷物スペースの大きいバンタイプをお勧めしますが、少人数対応であれば特別な車両は不要です。なお、介護関係職員との関係性を考慮し、過度に高級な車両は避けることをお勧めします。
1-3. システム・その他任意保険の準備
レセプトコンピュータの設定
多くのレセコンには「訪問モード」が搭載されており、訪問診療料や必要記載事項の入力を支援してくれます。訪問モードがオプション扱いの場合がありますので、事前にメーカーにご確認ください。
介護保険請求機能については、ほとんどのレセコンで有料オプションとして提供されています。
任意保険の確認
診療所で、施設賠償責任保険に加入されている場合、訪問先での器物損壊(カーペットへの薬液の付着、搬入時の壁・ドアの損傷など)が補償対象となるかご確認ください。このような事故は稀に発生します。
1-4. 必要書類の準備
介護保険関連書類
みなし指定により介護サービス事業者となるため、介護保険制度における運営基準の遵守が必要です。医療保険と比較して説明・同意がより厳格に求められるため、「重要事項説明書」「介護サービス契約書」等の準備が必要となります。(詳細は別の機会に解説します)
算定要件に関する書類
① 歯科医師による居宅療養管理指導
介護保険被保険者の場合に介護保険請求をするなら、担当ケアマネジャーへの毎月の情報提供が義務付けられています。
② 歯科衛生士による居宅療養管理指導
歯科医師よりも算定要件が複雑で、以下が必要です:
- 歯科医師、歯科衛生士が共同で作成した管理指導計画書の作成・交付、利用者(患者様)の説明と同意
- 定期的な口腔内評価と歯科衛生士実地録(業務記録簿)
居宅療養管理指導関連書類
歯科医師居宅療養管理指導情報提供書、管理指導計画書については、東京都福祉局に様式例が掲載されています(別紙様式2、3):
歯科衛生士による居宅療養管理指導・歯科訪問衛生指導料・業務記録簿
歯科衛生士の居宅療養管理指導では、医療保険と同様に実施記録(業務記録)が必要です。公的な様式がないため、デンタルネットの訪問歯科総合支援ソフトSOLから発行される様式を参考にして下さい。
おわりに
今回は訪問診療開始にあたっての主要な準備項目をご紹介しました。この他にも指定難病医療費助成の指定申請、各種施設基準、詳細な算定要件書類など、細かいことで準備すべき事項は多数あります。
訪問歯科診療は外来診療とは大きく異なる特徴があるため、十分な準備と理解が成功の鍵となります。段階的に訪問診療を開始される先生に向けて、詳細な情報を公開する予定です。