訪問歯科成功の鍵:コーディネーターの採用について

訪問歯科成功の鍵:コーディネーターの採用のすすめ

訪問歯科において、優秀な歯科医師・歯科衛生士による質の高い治療・口腔ケアは必要条件ですが、それだけでは十分とは言えません。特に訪問歯科診療では、効率的なスケジュール管理、患者・家族との継続的なコミュニケーション、複雑な保険制度への対応、チーム運営など、医療技術以外の要素が成功を大きく左右します。これらの「口腔内改善以外の重要業務」を専門的に担うコーディネーターの配置こそが、訪問歯科運営における成功の鍵となります。

訪問歯科診療においては、医療従事者の労働時間を診療時間割合を高くする効率的な運営管理、多くの顧客(患者さん・ご家族、介護事業者)との継続的な関係構築、働きやすい職場環境が、経営の成功に直結します。これらの領域は、医療従事者の専門分野とは異なる専門性を要求するものです。

訪問歯科の課題とコーディネーターの必要性

訪問歯科は次のような特徴があり、これらが経営上の課題となっています:

  • 外来診療と比べて事務作業が大幅に増加:
    診療記録、各種書類作成、複雑な算定など。訪問歯科診療は時間で評価される保険体系のため、医療従事者の時間をできるだけ診療に集中させることが重要
  • 関わる人が多く、それぞれへの配慮が必要:
    患者さん・ご家族・介護者・紹介者など、様々な立場の方々の満足度を同時に向上させる必要がある
  • 規模が大きくなるとスタッフが増加:
    非常勤も増え、チーム全体の連携やコミュニケーションの管理が複雑になる

さらに、訪問歯科は院長先生の目の届く範囲で業務を行っていない時間が多く、事実が把握しにくいという側面があります。訪問歯科に既に取り組んでいて、次の課題を感じない院長先生はいないと思います。

  • 1日の診療人数が少ないが実態がわからず、適切なアポイント設定判断が困難
  • スタッフが増え、従業員とのコミュニケーションや統制が困難
  • 患者満足度の把握が困難

多くの訪問歯科では、医療従事者のみでこれらの課題を解決するのが難しいため、20年以上前からコーディネーターが配置されていました。これから新規参入する歯科医院さんがコーディネーターを配置せずに、競合に優っていくのは現実的ではありません。

コーディネーターは、医療従事者や経営者の橋渡し役として、院長の方針を理解し売上に貢献し、見えにくい懸念点を見える化することを期待できます。まさに院長の目となり耳となり、訪問歯科の様々な課題を解決する専門職なのです。

コーディネーター採用の人件費について

1チームあたり1日1名の在宅患者を増やすことができれば、コーディネーターの採用費用は十分に回収可能です(在宅診療の1回あたり診療単価は約2,000点)。効率的な運営により、医療の質向上と経営改善の同時実現が可能になります。

コーディネーター採用における重要な認識

コーディネーターに限らず、採用にあたっては、単に「スタッフが忙しい」という短期的な問題解決だけのために人員補充するのではなく、院長が想う理想の訪問歯科運営にとって、不足する部分を考え、どのように補えるかを検討することをおすすめします。

訪問歯科診療の拡大とともに、スタッフの増加、非常勤割合の上昇、そして組織への貢献を一番に考える医療従事者ばかりではないことを考慮すると、多くの歯科医院は、コーディネーターに多様な責任を求めざるえないということです。

つまり、コーディネーターには、売上UP(主にアポイント)、患者満足度、スタッフ満足度という広範囲の責任を担ってもらうことになります。これは大変な業務です。アポイントのパズルを組み、現場が効率良く回るよう率先して動き、外内部とコミュニケーションも上手に取り、顧客満足度も向上させ、問題を感じたら報告させるという難しい責任を負うことを、組織は要求せざるを得ないのが訪問歯科の運営の正直なところです。

コーディネーターの価値向上

仕事で自身の価値を上げるには、何か特別な知識や技術を身につけるか、責任の範囲を広げるかしかありません。優秀なコーディネーターは価値を上げるために責任の範囲を広げ続けています。

コーディネーターの具体的な業務内容

朝の準備や帰院後・事務業務

  • 訪問器材の準備・片付け、技工物の確認
  • 出発前、1日の訪問スケジュールのチームメンバーとの共有
  • 患者基本情報台帳の作成・登録
  • 正確な診療実績および入金記録作成・提出、算定要件書類や運営書類の確認
  • 患者、家族、施設職員等の介護者へのアポイント連絡等

アポイント管理

  • 効率的な訪問スケジュールの策定と継続的な改善・最適化
  • 交通状況を考慮した最短・最適な移動経路の選択
  • 急患や主訴発生など持ち患者の増減に対する柔軟な対応、リコール業務

診療現場業務

  • 訪問先ごとに設定された時間での診療のための事前打合せ・タイムキーパーの役割
  • 歯科医師・歯科衛生士のアシスト業務、準備や片付け
  • キーパーソンへの料金体系や訪問診療システムの説明、診療終了時の報告業務
  • 保険資格確認
  • 負担金収受と記録

※医院ごとに業務内容は異なります。

コーディネーターの育成

覚える知識も多く、責任の範囲も大きいので、コーディネーターの育成はとても難しいものです。最初から詰め込みすぎるとパンクしてしまいますので、診療チームに役に立っているという実感(運転や準備片付け等)を感じられるような業務から少しずつ業務に慣れた頃に新しい責任を追加していくような丁寧さは教育する立場にも求められると思います。

こちらもコーディネーターに限った話はないですが、放っておいて、適切に責任の範囲を増やせることは期待出来ません。ここまで業務ができるようになったら、次の責任をと少しずつ範囲を広げていくような教育カリキュラムは準備された方が良いと思います。

育成期間の目安

個人差がありますが、(特に責任の範囲拡大には)歯科的な知識、顧客とのコミュニケーション、チームの効率化など満遍なく任せられるコーディネーターになるには1年程度はかかります。

コーディネーターに適した人材特性

期待されるスキル

  • コミュニケーション能力:様々な関係者との円滑な意思疎通ができると良い
  • 調整能力:複数の要求をバランス良くまとめられる能力があると助かります
  • 積極性・行動力:診療現場で率先して動き、チームをサポートする姿勢
  • 運転技術:安全で効率的な移動ができる運転スキルがあると良い
  • PC操作・事務処理能力:基本的なPC操作や事務処理ができると業務がスムーズです
  • 注意深さ:保険請求等の重要業務でミスが少ないと安心です

優れたコミュニケーションの特徴

優れたコーディネーターは、相手のニーズを先読みして適切に対応できる能力と不明な点について謙虚に確認し、正確な情報提供に努める姿勢を併せ持ちます。例えば、患者さんに疑問が生じていることを察知した際、代わりに歯科医師に質問し、応答を患者さんに聞いて貰うなど、自然な気配りができることが重要です。

採用を控えるべき人材特性

不適合な特性

  • 運転に不安がある人:訪問診療の効率は移動時間に大きく依存します
  • 適切なコミュニケーション能力を欠く方:不正確な情報提供や応答は関係者との信頼関係を損ないます
  • 注意力に課題がある方:保険請求の根拠となる事務作業のミスは組織全体の業務効率を下げます

コーディネーターは訪問歯科のキーマン

コーディネーターは、訪問歯科診療の成功に直結する以下3つの重要な責任を担います。

1. 売上向上への貢献

効率的なアポイント管理により、医療機関の収益向上に直接寄与します。限られた診療時間の最大活用と無駄のないスケジューリングにより、1日あたりの診療効率を向上させます。

2. 患者満足度の向上

患者さん、ご家族、介護従事者との良好なコミュニケーションを通じて、医療サービスの質を向上させ、長期的な信頼関係を構築します。

3. チーム満足度の向上

歯科医師や歯科衛生士が診療に専念できる環境を整備し、チーム全体の業務効率と職場満足度を向上させます。適切なサポートにより、医療従事者のストレス軽減と継続的な業務改善を促進します。

訪問歯科診療におけるコーディネーターは、もはや「補助的な存在」ではなく「現代訪問歯科院の成功に必須の専門職」として位置づけられます。質の高い治療・口腔ケアに加えて、効率的なアポイント、継続的な患者関係構築、正確な事務処理などが真の意味での患者満足と持続的な経営成功に不可欠です。

コーディネーターには確かに多面的で困難な責任を負うことになりますが、コーディネーターが優秀であれば、その効果は確実に現れます。1日の診療患者増加による収益に加え、患者満足度とスタッフ満足度の向上という、長期的に安定した訪問歯科の組織作りが期待できます。

訪問歯科の成功は、確実にコーディネーターの質にかかっていると言っても過言ではありません。時代の変化を的確に捉え、適切な投資と人材育成を実行する医院が、今後の競争において優位性を確立していくでしょう。

院長先生へのお願い

広範囲の責任を負うコーディネーターですから、労働環境のハード面(車、診療器材、PC、事務作業環境)は出来るだけ充実させてほしいです。多忙で、体力面でも精神面でも負担が大きい業務を行うのに、「診療器材が揃っていない」、「自分のパソコンがない」、「車にナビがない」等は難しい業務をより、困難にしてしまいます。

経営者の要求に応えてくれる存在である職種であることを念頭に、コーディネーターの業務しやすい環境を作っていく必要があります。

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