歯科訪問診療算定方法理解-基礎その2(同一建物と単一建物の数え方)

訪問歯科診療の算定要件において、特に理解が難しい「同一建物」と「単一建物」の概念について、その違いを分かりやすく解説します。

🔍 訪問歯科診療算定要件の特徴

  • 📋 医療と介護保険の2つの保険制度を使うこと
  • 👥 1つの建物で診療する人数や回数によって評価される算定区分が異なること
  • ⏰ 時間によって点数の評価が分かれていること

訪問歯科の算定要件の特徴は、医療と介護保険の2つの保険制度を使うこと、診療する人数や回数によって評価される算定区分が異なること、時間によって点数の評価が分かれていることですが、今回は人数や回数の数え方について解説します。

訪問歯科は一度に診療する人数が増えるほど点数が減算していく点数のたてつけになっています。訪問診療料とその他の管理料で数え方が違い2種類あります。そして複雑なのは「単一建物」の数え方です。個々に要件を覚えるのではなく、それぞれの違いから整理すれば、それ程難しくなく理解出来ます。

関連算定項目

■ 基本診療料:

歯科訪問診療料 ➡同一建物の概念を適用

■ 歯在管を除く管理料:

歯科医師による居宅療養管理指導
歯科衛生士による居宅療養管理指導 ➡単一建物の概念を適用
歯科訪問衛生指導料

算定区分の詳細

同一建物の算定区分

算定区分 対象人数 点数
歯科訪問診療料1 同一建物1人のみ 1,100点
歯科訪問診療料2 同一建物2人~3人 410点
歯科訪問診療料3 同一建物4人~9人 310点
歯科訪問診療料4 同一建物10人~19人 160点
歯科訪問診療料5 同一建物20人以上 95点

※点数は訪問診療1を除き、20分以上の点数です。

単一建物の算定区分

算定区分 対象人数 単位数
居宅療養管理指導1 単一建物居住者が1人の場合 517単位
居宅療養管理指導2 単一建物居住者が2人以上9人以下の場合 487単位
居宅療養管理指導3 単一建物居住者が10人以上の場合 441単位

※ 重要な注意事項

  • 単位数内は歯科医師による居宅療養管理指導です。訪問衛生士指導料、歯科衛生士による居宅療養管理指導も同じ区分で3つに別れています
  • 医療保険では1点=10円ですが、介護保険では1単位=10円が基本的な報酬を表す単位です

1. 同一建物居住者と単一建物居住者の数え方の違い

① 同一建物と単一建物の基本概念

まず、理解しておくべきは、1つの建物内で、診療した人数の数え方の違いです。

  • 歯科訪問診療料(同一建物)は1つの建物で診療した人数(回数)/1日/医療機関ごと
  • 訪問歯科衛生指導料・居宅療養管理指導(単一建物)は、1つの建物で診療した患者数/1ヶ月/医療機関・介護サービス事業所ごと
基本概念の違い
同一建物居住者
📅
1日単位
その日実際に診療した人数
1
2
3

5
4
5
6
7
8
9
10

3
11
12
13
14
適用:歯科訪問診療料
単一建物診療患者・居住者
📅
1月単位
サービス提供した患者数
算定項目ごと1ヶ月のレセプト枚数
適用:訪問歯科衛生指導料
居宅療養管理指導

※建物の考え方は同じです。建築基準法第2条第1項に規定する「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」を指します。渡り廊下のみでつながっている外観上明らかに別の建物の場合、それぞれ別の建物として扱います。

📌 数え方の基本的違い:同一建物は「1日単位」、単一建物は「1月単位」

2. 同一建物(回数)と単一建物(人数)で異なる数え方のルール

① 実績と予定

同一建物と単一建物の最も重要な違いは、カウントする基準とタイミングにあります。訪問診療料(同一建物)は、同じ施設で1日に「何回診療したか」のみですが、居宅療養管理指導など(単一建物)は、月初の予定での算定が当月に限り認められています。

同一建物(実績ベース)
1つの建物で1日に診療した人数実績

シンプル!
その日に実際に診療した人数を数えるだけ

単一建物(予定ベース)
📅
1月単位
月初の予定人数で固定
予定変更の具体例
月初予定:9名→ 居宅療養管理指導2で算定
月中:8名退所・死亡 → 予定外に人数が減っても2-9人区分で算定
月中:1名転入 → 9名予定+1名となっても、2-9人区分で算定。新規の1名は10人以上区分で算定
※月初の予定人数が基準となり、途中変更は新規分のみ別区分

② 夫婦等を想定した場合の評価の違い

「同一世帯」とは、生計(家計)を同じくし、一緒に生活を営んでいる世帯のことを指します。歯科訪問診療料では、夫婦等の場合で1人目を歯科訪問診療料1、2人目を歯科訪問診療料2で減算して算定していますが、居宅療養管理指導(単一建物)では、2人とも単一建物居住者1人の場合の区分で算定します。

👫 同一世帯(夫婦)の扱い – 逆のルール!

同一建物の場合

1,100点
410点
2人目から減算!

単一建物の場合

1人扱い
1人扱い
各人とも1人扱いの高い点数・単位数!

③ 単一建物居住者のみに適用される特別なカウント方法

単一建物居住者の人数カウントには、建物や施設の種類、利用状況に応じて、以下のような特別なルールが適用されます。

  • ① グループホームはユニットごとに人数を数えます。
  • ② 病院は病棟ごとに人数を数えます。
  • ③ 1つのマンションで、診療・サービス提供する割合が10%未満の場合は1人扱いで数えます。
  • ④ 小規模な20戸未満のアパートや集合住宅で2名にサービスを提供した場合は1人扱いで数えます。
単一建物居住者の例外規定
① グループホーム
GH(3ユニット以下)
ユニットA: 9名
→487単位(2-9人区分)
ユニットB: 1名
→517単位(1人区分)
合計ではなく、ユニット単位で計算
② 病棟
病院
一般病棟: 2名
→487単位(2-9人区分)
療養病棟: 10名
→441単位(10人以上区分)
病棟単位で計算
③ 10%ルール
100戸マンション
利用者1
非利用
利用者2
非利用
利用者3
約97戸(非利用者)
3名 ÷ 100戸 = 3%
3% ≤ 10% ✓
各利用者517単位(1人区分で算定)
④ 小規模集合住宅20戸未満の2人以下ルール
15戸アパート
利用者1
非利用
利用者2
非利用
非利用
他13戸(非利用者)
15戸 ≤ 20戸 ✓
2名≤ 2名 ✓
各利用者517単位(1人区分で算定)

💡 豆知識:グループホームのユニットとは?

グループホームのユニットは、原則として個室とキッチンなどの共用スペースで構成され、少人数の入居者が生活を共にする介護単位であり、全て5人から9人以下で1ユニットとなっていることがグループホームの主要な特徴です。ユニットは、特別養護老人ホームなど他の介護施設でも採用されているケア方式です。

いじわるな問題

Q.1Fと2Fが各ユニットのグループホームで、3Fが20戸未満の集合住宅の場合で1月に居宅療養管理指導を以下のように提供した場合の単一建物区分はどうなるでしょうか?

  • 3F:2名 / 2戸
  • 2F:5名 / 1ユニット
  • 1F:5名 / 1ユニット

A. 各階の単一建物区分は以下のようになります。

  • 1F:2〜9人区分 (グループホームはユニットごとにカウントするため、5名で該当)
  • 2F:2〜9人区分 (グループホームはユニットごとにカウントするため、5名で該当)
  • 3F:単一建物居住者1人区分 (20戸未満の小規模集合住宅で2名以下のサービス提供の場合、1人扱いとなる特例が適用されるため)

本来3Fの2名は建物全体(12名)で数えますが、小規模な20戸未満の特例のために1人区分になります。

この問題のように、単一建物の算定では、例外規定の適用が基本的な数え方よりも優先される点に注意が必要です。

重要な違いの整理

同一建物

  • 算定項目:歯科訪問診療料
  • 数え方:建物内で1日に医療機関で診療した人数でカウント
  • 夫婦の取扱:1人目に歯科訪問診療料1を算定、2人目に歯科訪問診療料2を算定
  • 特別ルール:なし

単一建物

  • 算定項目:訪問歯科衛生指導料、歯科医師・歯科衛生士による居宅療養管理指導
  • 数え方:建物内で、1ヶ月にサービス提供した患者数でカウント
  • 夫婦の取扱:2名とも居宅療養管理指導1で算定
  • 特別ルール:グループホーム・病棟ごとの数え方、建物戸数10%以内1人扱いルール、20戸未満且つサービス提供2名以下の小規模建物1人扱いルール

さいごに

2018年度改定で、居宅療養管理指導は「同一日の回数」から「月間利用者数」による算定に変更されました。これは「報酬算定のための意図的な訪問日調整」を防ぐためです。歯科訪問診療料は従来通り「同一建物(日単位)」が維持されていますが、今後変更される可能性もあります。

現在の制度では、同一建物の訪問診療料は人数により大幅な点数差がある一方、単一建物の居宅療養管理指導は比較的差が小さく設定されています。これは制度全体のバランスを図ったものと考えられます。

完璧な制度は存在しません。現状では、与えられたルールを正しく理解し工夫し、患者さんにとって最適な診療を提供していくことが求められています。

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※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況については関係機関にご確認ください。