はじめに
これから訪問歯科を開始する医院にとって、最も重要な課題は患者獲得です。訪問歯科の広報活動は20年以上前から大手医療法人を中心に競争が激化しており、「後発参入で成功できるか」という不安を抱く先生も多いでしょう。
しかし、競争が激しいのは主に施設への広報活動であり、在宅患者の増患については、各医院独自の取り組みで十分対応可能です。実際に、独自の手法で在宅患者を増やしている医院も数多く存在します。
本記事では、小規模から訪問歯科を開始することを想定し、在宅患者獲得の具体的な方法をご紹介します。計画的に継続して取り組むことで、成果につながりやすくなります。
広報先:地域の居宅介護支援事業所・地域包括支援センター
居宅介護支援事業所、地域包括支援センターには、在宅患者の介護において重要な役割を担うケアマネジャーが配置されています。ケアマネジャーは1人当たり約30名の要介護者・要支援者を担当し、各利用者の要介護度に応じた保険限度額内で最適な在宅サービス(デイサービス、ショートステイ、訪問介護、訪問看護等)の組み合わせをアドバイスしています。

高齢者の訪問歯科の申込み経路はケアマネさんからだけではありませんが、在宅患者さんの申込みは「ケアマネさんを介して」というのが大多数を占めています。
⚠️ ポイント
訪問歯科の居宅療養管理指導は、介護保険のケアプラン限度額(月額の利用上限額)に含まれないため、限度額を理由に訪問歯科サービスが利用できないということはありません。
必要な準備
事業所リスト
以下から市町村ごとの介護事業所リストを検索することができます。市町村によっては独自の情報を公開している場合もありますので、「介護事業所 〇〇市 一覧」等で検索してください。
📋 介護サービス情報公表システム
自院の訪問歯科パンフレット・案内冊子
営業する場合、患者さん用のパンフレット、ケアマネさん向けの案内冊子は準備しておいた方が良いでしょう。多くのケアマネさんは、訪問歯科の案内冊子等を複数保管しておいて、利用者さんから歯科の相談があった場合に案内冊子を見返して訪問歯科を思い出します。
ケアマネさんによっては複数のパンフレットを利用者さんに見せて選んでもらう方もいらっしゃいます。在宅の広報活動において、広告物のイメージは重要です。
📄 パンフレット・案内冊子の作成についてはこちら
挨拶まわりの実践方法
院長に営業経験があり、初対面の方ともコミュニケーションを取れる場合は、診療の空き時間を活用して近隣の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターへの挨拶回りを実施してください。院長以外のスタッフでも対応可能ですが、初回は院長自身が挨拶に伺うことで、信頼関係構築の効果が高まります。
これは営業活動ではなく、正確には訪問歯科の広報活動です。そのため、多くのケアマネジャーは前向きに対応してくれます。
直前でもよいので電話でアポをとる
ケアマネさんは月に1回、利用者宅に訪問が義務付けられていますので、不在の場合が多いです。事前にお電話で「ケアマネジャーさんにご挨拶に伺わせていただいてもよろしいでしょうか」と確認しておく方が良いです。ケアマネさんが不在の場合、パンフレットだけお渡しして、お会いできずに終了という可能性もあります。
効果的なアピール内容とは?
面談時に訪問歯科が一般的にアピールしている内容は、以下のような項目です。多くの訪問歯科から類似した案内を受けているケアマネジャーが多いため、過度なアピールよりも、紹介いただいた患者に「責任を持って丁寧に対応する」という姿勢を印象付けることが重要です。
📢 一般的な訪問歯科のアピールポイント
- 無料健診から対応している
- 器材が揃っている
- 毎日往診チームが回っている
- 女性ドクターが在籍している
- 入れ歯が得意な先生がいる
- 急患対応する
- 口腔ケアでリハビリ訓練もしている
- VE(嚥下内視鏡検査)専門の医師が在籍している
ケアマネジャーは「紹介した歯科医院で不適切な対応があり、利用者からクレームが来ることは避けたい」が、「より質の高いサービスを提供する歯科医院があれば利用してみたい」と考える傾向があります。訪問歯科のサービス内容について一定の知識を持っているため、「信頼できる歯科医師である」と感じてもらうことに重点を置くことが効果的です。
時間・人員不足の場合:外来患者さんへの宣伝活用法
広報活動に割ける時間や人員が限られている場合の対応策をご紹介します。
この場合、受付スタッフの活用が効果的です。外来患者が多い歯科医院の受付スタッフは、高いコミュニケーション能力を持っていることが多く、営業担当者と同等以上の成果を期待できます。特に来院患者さんが多い歯科医院は期待値が上がります。
💡 実務ポイント
具体的な実施方法:
- 訪問歯科を開始した旨をポスター掲示
- 会計時に訪問歯科開始の案内書類やパンフレットを必ず手渡す
- ご家族等が困ってないかをお聞きする
通院が途切れている高齢患者への案内ハガキ送付よりも高い効果が期待できます。受付スタッフは既に患者との信頼関係を築いており、営業活動において重要な要素を備えているためです。
⚠️ 注意点
相手に合わせず一律に訪問歯科のチラシを配るだけではダメです。必ず、その方にコミュニケーションを取るように、漏れなく会計時に全員に実施してください。
在宅患者獲得の重要ポイント
初回のケアマネジャーからの患者紹介において、ベテラン広報担当者と院長の成果に大きな差は生まれません。長期的には営業専門スタッフの継続的なアプローチが効果を発揮することもありますが、1日10件の挨拶回りで比較した場合の紹介確率には、それほど大きな差は現れません。
地域差はありますが、一般的に面談後5%~10%のケアマネジャーから紹介を受けることができます。特別な知識がなくても、挨拶回りを実施すれば一定のケアマネジャーから紹介を受けられる傾向があります。担当者の人柄と合うケアマネジャーが存在し、利用者家族からの相談タイミングが合致すれば、一定確率で成功するのが広報活動の特徴です。このような成功パターンがあるため、訪問歯科在宅分野の広報活動手法は、まだ十分に洗練されていない面があります。
最も重要なのは「2人目以降の紹介」
ご紹介をいただいた場合、最低限、初診日時の報告を兼ねて、ケアマネさんへのお礼の連絡をしてください。その後の2人目の紹介を誘発させる仕組みや、申込み時の受付業務や注意点は別の機会にご紹介します。
✅ 成功の鍵
差ができるのは、1人目の紹介をいただいた患者さんの満足度を高め、ケアマネさんを大切にして、次の紹介をいただけるようにすることです。在宅患者さんを多く抱えている訪問歯科は必ず、2人目の紹介に必要な条件を満たしています。
本当に力を入れるべきところは、1人目の紹介を受けた後、どのように2人目の紹介につなげるかです。医院の総力を挙げて、2人目の紹介につなげる必要があります。治療の結果、その他接遇等の満足度が一定以上であることは必須条件です。
デンタルネットの広報活動サポート
デンタルネットでは、長年蓄積した広報活動のノウハウを提供しています。特に施設獲得分野においては、多くのスタッフが試行錯誤を重ねて構築したメソッドを活用したサポートを行っています。訪問歯科の広報活動に必要なパンフレットや案内冊子の制作、さらには営業代行サービスも提供しています。
まとめ
訪問歯科の在宅患者を増やすには、まず地域のケアマネジャーさんとの信頼関係構築から始まります。初回の紹介をいただくことも大切ですが、それ以上に重要なのは継続的な紹介をいただける関係性を築くことです。
時間や人員に制約がある場合は、既存の外来患者さんへの宣伝から始めることも有効な手段です。受付スタッフの力を活用して、まずは小さくスタートしてみることをお勧めします。
覚えるべき基本:
- ケアマネジャーとの信頼関係構築を最優先
- 1人目より2人目の紹介獲得に注力
- 患者満足度と接遇レベルの向上
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況については関係機関にご確認ください。