第1回の振り返り
第1回「訪問診療の制限と定義」では、個別指導での歯科訪問診療料指摘を防ぐための2つの対策のうち、「訪問診療料の対象とならないケースと定義について」について詳しく解説しました。
第1回で学んだ要点:
- 適正な対象患者の選定と通院困難性の判断
- 16km制限と特例手続きの理解
- 特別関係施設への適正対応(患者囲い込み防止)
- 歯科訪問診療の2つの重要な定義(個別の求め・計画性)
第2回は「実践編」として、最も指摘の多い「記録不備」の解消について、具体的な対策を詳しく解説していきます。
【第2回の焦点】記録不備の解消
この対策により、個別指導での時間に関する疑義や画一的記載の指摘を回避し、適正な診療記録を維持できるようになります。算定要件上明確に記録が義務付けられているものだけでなく、ケアマネさんからの申込み書や得た情報、患者さんとの訪問診療の同意書なども実態を示す根拠として、保管するようにして下さい。
「画一的」記載・記録の回避
個別指導で最も多く指摘される問題が「画一的な記載・記録」です。画一的とは、患者個別の実態に合わせていない記録を指します。 これは記載内容と時間記録の両方に共通する重要な概念です。
画一的な記載・記録が問題となる理由は以下の通りです:
- 患者ごとの容態・口腔内の状況に合わせた記載でないこと
- アセスメント→計画立案→効果確認→計画見直しのサイクルに従った診療を行っているかが疑問視されること
- 実際の診療内容と記録が合致していない疑義が生じること
具体的な画一的記録の例:
- 記載内容 – 全患者に同じような診療計画や患者状態を記録
- 時間記録 – 患者・処置内容問わず毎回同じ21分等の時間を記録
対策のポイント: 優先すべきは、患者の容態・口腔内の状態に基づいた個別性のある記載です。毎回記載内容を変える必要はありませんが、まずは患者ごとに異なる記載であること、次に計画的に行われており、医学的な効果をもとに見直しているかという点が重要です。時間についても、患者さんの全身状態や処置内容に応じた実態に即した記録が求められます。20分以上を目指して診療を行うことは禁止されていませんが、医学的な必要性について証明する必要があります。その場合算定する、しないに関わらず実施した処置内容については診療録への記載が必要です。
初診時は訪問診療計画の記載が必要
訪問診療は「計画的である」ことが条件です。初診時は診療録に症状に基づいた診療計画の要点記載が必要です。
計画の要点については、以下のように記載して下さい:
- 申込みの経緯
- 患者の全身状態、生活環境・習慣、要介護度等
- 口腔内の状況、清掃状況
- 主訴
- 治療計画の概要(治療は順番を記載)
※別紙治療計画書でも可です。
※口腔機能の評価は歯在管や訪衛指の要件になりますので、訪問診療料のみの算定の場合、必須ではありません。
2回目以降の診療で、計画が変更になった場合は、変更の要点を診療録に記載しなくてはなりません。治療計画に記載した内容に変化があった場合は、毎回記載するのがベターですが、少なくとも治療計画通りでない場合は、変更した理由を記載する必要があります。2回目の計画変更時の記載がない指摘は多いので注意して下さい。
診療録への記録
算定要件上、診療録記載が、義務付けられているものは以下の通りです:
- イ 実施時刻(開始時刻と終了時刻)
- ロ 訪問先名(記載例:自宅、○○マンション、介護老人保健施設××苑)
- ハ 歯科訪問診療の際の患者の状態等(急変時の対応の要点を含む。)
時間について
なぜ時間が最重要なのか
時間の正確な記録は、昨今の個別指導のおもに時間をかけて調査される項目です。場合によってはタイムカードの提出を求められることがあり、指導時に、時間の整合のみを調査する担当事務官がいる程です。
多くの訪問診療を行っている歯科医院の懸念は時間の正確性に自信がないことです。 これは最も重要なポイントで、訪問診療料の20分以上を無理矢理算定しても、採算が上がる訳でもないですし、時間を誤魔化しても個別指導の場では、必ず矛盾が生じますのでやめましょう。実態通りの記載が必須です。
画一的時間記録の問題
前述の「画一的記録」の典型例が時間記録です。10:10~10:31などの常に21分などの時間記録は画一的で信頼性に欠けます。また、施設で10:20~10:40、次の患者さん10:40~11:00などの場合は、移動や準備片付けの時間が含まれていると推認されるため、20分以上と認められないと指摘されたケースもありましたので、もし実態通りとしても注意して下さい。
なお、20分以上を目指して診療することは、違反ではありません。この場合、算定出来る、出来ないにかかわらず、実施した内容を診療録に記載し、時間の根拠を証明する必要があります。