外来診療と訪問診療の違いは、単に「移動時間が増える」ことだけではありません。
対象となる患者さんが通院困難な方々であることで、診療業務全体が複雑かつ煩雑になるという点が、最も重要な相違点です。
外来との違いである訪問歯科診療の特徴は、そのまま解決すべき課題となります。外来診療と同様の成功を収めるには、これらの課題を一つずつクリアしていくことが鍵となります。既に訪問歯科に取り組んでいる医院でも、これらの課題を完全に解決できていないケースは少なくありません。
訪問診療が複雑煩雑になる主要課題
1. 対象者・移動時間・広報に関する課題
- 通院が困難な方、何らかの疾病を抱えている方が対象なので配慮が必要
- 訪問先への移動時間がかかり、労働時間に対する診療時間割合が小さい
- 一般的な広告媒体で訪問歯科の新患はほぼ発生しないため、広報担当者が必要
訪問診療の対象者は身体的配慮が必要な方が大多数を占めるため、治療が思った通りに進まないケースが多々あります。先生が理想とする治療が患者さんの満足度に直結するとは限らないため、患者さんの身体状態を考慮し、限られた制約の中で段階的に目的を設定することが重要です。できる範囲をよく説明し、1回の治療進捗にこだわらず、患者さんと末永く関係を続けることで長期間かけて解決していく姿勢が必要です。訪問診療料の算定評価もこのような視点に立ったものだと理解しています。
移動時間により労働時間に対する診療時間割合が外来診療に比べ低いため、徹底的な効率化が必須です。しかし、半径16kmという広範囲に少ない患者さんが点在する状況では、移動時間を効率化のみで解決するのは困難です。ある程度の規模(患者数とチーム数)の拡大が求められます。エリアを絞りすぎると広報活動の母数が減り患者さんの増加が鈍化するため、段階的な規模拡大を計画的に進めることが重要です。
一般的な広告媒体では新患獲得が困難で、ホームページや近隣住民からの自然な来院はほぼ期待できません。評判の良いドクターや医院のサービスの良さを効果的に紹介者に伝えるため、施設やケアマネジャーへの積極的なアプローチが不可欠となり、専任の広報担当者の配置が必要です。外部の声を拾い、自院のサービスを拡充する優秀な外部とのパイプ役は訪問診療成功の必須条件と言えます。
2. 顧客の複雑さ・事務処理の煩雑さに関する課題
- 患者さんが高齢者、介護保険対象者が多いため、説明と同意要件が厳しく時間がかかる
- 顧客=患者さんではなく紹介者・家族・介護者が複数存在するため、報告・相談相手が多数となり配慮する相手が多い
- 負担金の回収は都度ではなく一月まとめて請求書を作成する必要がある。また請求先=患者さんではないケースも多く、支払い方法も多岐に渡るため事務業務が増加
介護業界では医療保険以上に説明と同意について厳しく規定されています。介護保険法には「説明書やパンフレットを用いて懇切丁寧に説明して同意を得る」といった要件が明記されており、重要事項説明書や介護サービス契約書など、多数の運用書類を準備する必要があります。
また、顧客=患者ではない顧客構造の複雑さは訪問診療の診療外業務を増やす大きな課題です。患者さんだけでなく、紹介者(ケアマネジャー、施設職員)、家族(意思決定者、連絡担当者)、介護者(ヘルパー、施設職員)、支払者(患者本人、家族、施設)など、多重の関係者が存在します。これらの関係者が診療現場に同席しないケースも多く、報告や相談の相手が複数存在するため、診療以外の雑多な業務が増加します。算定要件書類や報告書類も複数の相手に渡すケースがあり、配慮する相手も多くなります。
請求・収金業務では、診療毎の支払いではなく月単位でまとめての請求となり、請求書の作成が必要です。多くのレセプトコンピューター(レセコン)は訪問診療を想定した請求書の作成に対応しているとは言えず、別途請求書を作成しているケースも少なくありません。また、支払い方法も口座引き落とし、振込、集金など多様化するため、業務が煩雑となり、未収金が発生しやすく事務・人的負担が増大します。
3. 算定ルールの複雑さに関する課題
- 介護保険と医療保険の請求
- 算定区分が詳細に分かれている
- 時間で評価が分かれる(20分以上・未満)
- 診療点数に占める基本診療料と管理料割合が高く、処置点数の割合が相対的に小さい
訪問診療では、介護保険対象者でも訪問先の種別により医療保険と介護保険の併用、または医療保険のみでの請求の2種類に分かれます。訪問先により、介護保険をお持ちでも医療保険のみで請求する患者さんも存在するため、正確な知識習得が必要です。
基本診療料である訪問診療料は、外来の初診料・再診料に相当しますが、1日の同一医療機関による診療人数(回数)により5つの区分に分類されます。さらに、訪問診療1(在宅でお一人のみ診療)を除き、20分以上・20分未満で評価点数が異なります。また、歯科衛生士の口腔内管理も基本的に20分以上の口腔ケア実施が必須となります。
管理料(歯科疾患在宅療養管理料や各種指導料)の点数・単位数が高く設定されており、1回の診療点数に占める割合の大部分が訪問診療料と管理料となります。処置点数の割合は相対的に小さくなるため、処置内容よりも口腔内の管理(アセスメント、計画・実施、計画の見直しのサイクル)が訪問診療で評価されていると考えられます。これらの複雑な要件を理解し、いかに効率良く点数を獲得するかが売上向上の重要なポイントとなります。
4. 課題の先にある大きなメリット
これらの課題と引き換えに、訪問診療には外来診療にはない大きな利点があります。1回あたりの診療報酬は外来と比較して高額で、患者さんや施設からのクレームが少なく、医院に定着してくれる患者さんの割合が高く、診療終了となる患者さんも少ないという特徴があります。つまり、規模が拡大しやすいため、訪問診療自体の売上拡大は外来診療と比べスピードが速いと言えます。また、分院を開設するよりも投資が少なくすみ、訪問診療は利益率が高いというのも訪問診療のメリットです。
まとめ
どのような課題も、まず課題として正しく認識できれば解決可能です。訪問歯科診療の成功には、体系的な課題把握と対策、効率的な業務プロセスの構築、適切なツールとノウハウの活用、段階的な規模拡大の計画が不可欠です。
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